当講座の正式名称は「多自由度システム情報論講座」である。
厖大な数の原子からなる物質や、多数の細胞からなる生体、多くの人間の集団としての社会、あるいは、多数・多種類の生物の集まりである生態系などは、多数の要素で構成されていて、各要素・各個体がさまざまな状態をとりながら、要素間でエネルギーや物質のやりとりや個体間で情報交換が行われている、相互作用する多体のシステムである。そのようなシステムは「複雑系」と総称される。複雑系は、しばしば個体の法則性から単純には予測できない協同現象・協調運動を発現する。液体から固体への相転移や、滑らかに流れていた交通流が渋滞へと遷移する現象が、そういった協同現象の例である。 また、原子や電子などミクロの世界を観測し操ることが可能になった現代においては、個体要素の基礎法則として古典力学だけでなく量子力学を取り入れることも必要であり、量子相転移や量子測定など、ミクロ多体系とマクロ系の境界領域の現象がますます重要になってきている。
このような現象を理解するためには、従来の分析型の研究方法だけでは不十分であり、統合型の思考方法が必要とされる。
本講座では、物理学で培われてきた統計力学の概念・方法と、最新の情報科学の視点・手法を基軸として、要素還元と全体像統合の双方の思考ツールを開発・駆使し、複雑系現象を統一的に理解する原理を究明する。また、そうして得られた方法論や知見を、広く自然・社会における問題の解明・解決に活かすための研究・教育を行う。